<多忙感で雑談が減少している>

 私が若かったころの夏休み、職員室の雑談の中で、教育センターで受けてきた研修の話になった。冗談も交えながら談笑しているうち、互いに授業を見せ合おうということになった。すぐに互いの時間割などを検討し、計画を立てた。2学期から、お互いに授業を見せ合う“現場研修”が実現した。こんな話は3分や5分の談笑からは出てこないと思う。互いの気心が分かるようになり、ある程度のゆったりとした雑談時間があって初めて実現したと思う。

 教員免許更新制が始まる。確かに世の中がめまぐるしく変化し、教育の内容も方法も考え方も変化が激しく、多種多様になってきた今日である。“研修”は必要であり、否定するつもりは毛頭ない。
 しかし、“免許更新のための研修”の多くは夏季休業中に行われるであろう。ベテラン教師も大学などへ出向いて“研修”を受けることになる。比較的ゆっくりとした時間の取れる夏季休業中の職員室での雑談の時間がさらに失われることであろう。

 学校現場の忙しさは尋常ではない。教師の忙しさについてはたくさんの検証、実証研究や論説があるので改めて言うまでもないであろう。そこへ加えての教員免許更新制で、教師たちは実際に割く時間以上に精神的に追い立てられて多忙感を募ることと予想する。夏季休業中だけでなく、1年を通じて職員室でのゆとりがなくなり、若い教師が雑談の中から学ぶ機会がさらに減っていく。教師文化の伝承がいっそう難しくなっていくことを危惧する。

<土曜日午後は貴重な時間だった>

 土曜日が半日の授業日であったころ、その午後は大切な時間であった。

 午前中の授業を終え、教師同士で連れ立って食事に出かけた。部活動の指導があるときは、短時間で学校へ戻ったが、それでも食事をしながら雑談できた。平日の夕方には喫茶店に行けないママさん教師も、土曜日には一緒に食事に出かけた。

 また土曜日の午後には、職員室で教材研究や事務仕事をする教師も多かった。そして、そこで雑談になることも多い。

 土曜日が休日になり、土曜日の午後に可能だった教材研究や子どもの学習成果物(ノートや学習プリント)の点検、さらに事務処理など、多くは平日の授業後にやらざるを得なくなった。その結果、平日の授業後も職員室の雑談は減る一方である。

 かつての若い教師は、こうした雑談の中から、研修会に出かけるよりもたくさんのことを臨床的に学んでいた。こうした雑談の中で、学校文化、教師文化が伝承されていったのである。
 

<雑談の中で教育観を磨きたい>

 今から約30年くらい前の話である。あるとき、同学年の先生から「相談したいことがあるので、第2で待ってていいかなー?」と言われた。「第2」とは、学校から少し離れた喫茶店であり、「第2職員室」の意味である。

 部活動指導後、その喫茶店へ行った。指導上困っている子どもについてどう対応するべきかという相談であった。同学年のもう1人の先生も含め3人で、翌日からの指導について話し合った。そして、担任以外の私たちがそれとなくその子に関わることができるように場所やタイミングを考えながら学年団で対処していった。

 こうした過程で、指導上の現実的問題解決だけでなく、実は互いに教師としての指導ノウハウを身につけていけたと思う。

 当時、部活動の指導を終えて“第2”に休憩に行くと、すでに先輩がいる。話が弾むと1時間でも2時間でも居座った。その雑談の中で、子どもの話、授業の進め方、教材の話、行事に向けての取り組みなども当然のように話題になった。そうした中で、授業作りの新しいアイディアが浮かんだり、明日の英気を養ったりした。そういった過程で、教師たちは、教材観、授業観、教師観、教育観を磨いていたのだと思う。